MCバトルのラッパーは音源がダサいと言われるのはなぜ?

MCバトルに出ているラッパーの音源はダサい」という定説を聞いたことがある人は多いでしょう。

たしかにMCバトルに出ていて、音源もバンバン売れている人ラッパーは、なかなかいませんね。

どちらか一方で、という人は多くいますが、両立している人はほとんどいません。

今回は実際にラッパーとして活動している筆者が、MCバトルのラッパーの音源がダサいと言われる原因について考察します。


目次

MCバトルのラッパーは音源がダサいと言われる3つの理由

なぜMCバトルのラッパーは音源がダサいと言われるのか考えてみると、たくさんの理由が思いつきました。

それは以下4つに大別できます。

  • 音源とバトルで求められるものが違う「性質の問題」
  • 音源を作るハードルが高い「難易度の問題」
  • 先入観を外せない「聞き手の問題」
  • 魅力的に見せられない「プロモーションの問題」

それぞれ詳しく解説するのでご参考にしてください。

音源とバトルで求められるものが違う【性質の問題】

そもそも音源とバトルで求められるものが違うのが、わかりやすい原因です。

 

<バトルで求められるもの>

  • 即興でバースをまとめること
  • すばやく韻を踏むこと
  • 相手を負かすこと
  • ステージング
  • 言い返すこと

 

<音源で求められるもの>

  • リリックの完成度
  • フロー
  • ミュージックビデオの完成度
  • 世界観の深さ

 

MCバトルも音源も同じラップでHIP-HOPです。

しかし、本質的に求められるものは大きく異なります

 

いくらステージングがうまくても、音源では役に立ちません

一方で高い完成度のリリックが書けても、それをMCバトルに持ち込めば「ネタばかり」だと言われるわけです。

 

MCバトルに出ている人は、とにかく即興で韻を踏み、言い返し、相手をぶっ倒すことに命を懸けています。

それなのに、いきなり「はい、音源なんで歌詞書いてフロー考えて世界観表現してください」といっても、無理があるわけです。

バトルに勝ち続けながら、音源制作に求められる色々なスキルを磨き続けるのは、かなりむずかしいでしょう。

音源を作るハードルが高い【難易度の問題】

そもそも見落としがちですが、音源を作るハードルが、非常に高い点が挙げられます。

単純にやることが多く、一つひとつが簡単ではありません。

 

<音源を作るためにやること>

  • 曲全体の構想を考える
  • リリックを書く
  • フローを考える
  • トラックメイカーにビートを作ってもらう
  • ブースに入ってレコーディングする
  • 技術者とともに微調整するetc.

 

基本的な部分だけでも、これだけのタスクがあり、バトルと違ってやることが多いのは明らかです。

まず曲全体の構想を考えるところからがたいへん。

これを考えて、しかも魅力的なものにするには、相当な努力とセンスが求められます。

そしてリリックやフローを「ああでもない、こうでもない」と考え、トラックメイカーや技術者とともにレコーディングして…

 

とにかく音源を作るのは、バトルで勝ち上がるのと同じくらいむずかしいわけです。

これだけのことを、キッチリできる人はなかなかいないでしょう。

そのつもりがあったもお金がかかるわけで、では今の若い子たちが金銭的な余裕があるかと言われれば微妙なところです。

先入観を外せない「聞き手の問題」

筆者の考えでは、おそらく聞き手にも問題があります

おそらくリスナーは、MCバトルで出ているラッパーの音源を聴いたとき、以下のように感じます。

  • 普段のバトルと様子が違う…
  • あんまり韻を踏まない…
  • パンチラインがない…
  • 声に迫力がない…

要するにMCバトルに出ている姿が先入観としてあり、それとかけ離れたところ聞かされるから「あれ…違和感が…なんかダサい?」となるわけです。

そもそもMCバトルと音源で求められる表現は違います。

MCバトルは即興で相手を言い負かす技術であり、エンターテイメントです。

音源は芸術作品であり、自分を表現したり、あるいは聞き手がそれに共感したりするコミュニケーションです。

なのにMCバトルで求めるべきものを、音源に求めるから、おかしくなるわけですね。

魅力的に見せられない「プロモーションの問題」

夢のない話として「プロモーションの問題」も挙げられます。

これによって、音源が魅力的に聞こえないケースが少なくありません。

 

大前提として、音源が「かっこいい」と思えるのは、プロモーション効果も関係しています。

高品質なミュージックビデオがあったり、ラジオやテレビで宣伝されたりして、「かっこいい」と思えるように導かれているわけですね。

メジャーアーティストたちは、莫大な予算のもと、ありとあらゆるサポートを受けて、音源が格好良くなるようにプロモーションされます。

 

他方、一介のラッパーができることはなんでしょう?

おそらく友人にPVを撮ってもらったり、SNSで告知したり、そういうのが限界でしょう。

いくら音源がすぐれていても、プロモーションがまともにできないから、音源が魅力的に見えないわけです。

もっと言い換えれば、「売れて金を得たい、でも売れるための金がない」状態にある、といえるしょう。

服を買いに行く服がないのです。

MCバトルで強くて音源でも成功している人もいるが…

とはいえ、MCバトルも強くて音源でも成功しているMCもいます。

例えば以下のラッパーは、その両方を実現していると言えるでしょう。

  • R-指定
  • ZONE
  • GADORO
  • T-Pablow

このあたりのMCは、(ダサいかどうかは別にして)、音源も売れているラッパーです。

ただし同時並行はむずかしい

注意して欲しいのは、バトルで勝ち続けながら、しかも音源で売れる人が少ないこと

ZONEやGADOROは、MCバトルから距離を置いて制作に集中して音源で成功しました。

R-指定やT-Pablowは、MCバトルには出ていたものの、フリースタイルダンジョンくらいで、メインは音源制作でした。

バチバチでバトルをやりながら音源でも成功しているなんて人は滅多にいないのです。

例えば呂布カルマくらいバトルに出ながら、¥ELLOW BUCKSくらい音源売れている人が、どれだけいるかという話。

まったく異なるものを求められるバトルと音源を両立するのは至難の業です。

音源とバトルを両立している例外

とはいえ、例外的に音源とバトルを両立している人もいます

近年だと百足や韻マン、Novel-Coreなどが該当するでしょう。

SKRYUや早雲も一定の成功を収めているように見えます。

 

CHEHONのように、「音源で成功したうえで(ラップ)バトルに出てきた」という人もいます。

漢 a.k.a GAMIも、MSCとして成功したあとでバトルに登場したので、この類型ですね。

 

またKREVAや般若のように「バトルでも音源でも超一流」という人もいます。

ただこれは天才中の天才で、何十年かに一人の逸材です。

 

バトルと音源を両立させるのはむずかしいことですが、こういう例外も一部います。

とりあえずメジャーに行ったらなんとかなる説

ただ、メジャーに行ったらなんとかなる部分はあります。

なぜならメジャーでは、潤沢な資金によるバックアップが得られるからです。

ミュージックビデオの撮影に共同制作者のサポート、恵まれた録音環境に十分な制作時間。

またマーケティングやブランディングのスペシャリストが、売れるために必要な要素を提示します。

CDのジャケットも、TVのブッキングも、メジャーならば自由自在です。

 

そのうえでバトルに出ようと思うなら出ることも可能でしょう。

音源制作で培ったものを、バトルで活かせるかもしれません。


まとめ:基本的にラッパーはバトルと音源どちらかしか選べない

本記事では、なぜMCバトルのラッパーの音源がダサいと言われるのか考えてみました。

一言で言うと「基本的にラッパーは、バトルと音源どちらかしか選べない」といえます。

それぞれで求められるものが違いすぎて、両立できないからです。チェスでもサッカーでも一流のパフォーマンスをしろと言っても、無理な相談ですよね。

KREVAのようなケースもありますが、あれは天才すぎるので、まともに考えてはいけません。

 

どうしたらMCバトルのラッパーは、格好いいとされる音源を作れるかというと、やはり結果を残すしかありません

MCバトルで優勝しまくって、そのうえで音源制作に力を入れる。

その音源が本物であれば、「MCバトルのラッパーの音源なんて」と言われることはなくなるでしょう。


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