MCバトルが日本に馴染んで、はや10年くらいが経ちました。
高校生ラップ選手権に始まり、フリースタイルダンジョンの放送開始。さらにKING OF KINGSが発足して戦極や凱旋などの大会規模も大きく拡大。
最近はバトルサミットが開催され、FREE STYLE LEAGUEまでスタートしました。
MCバトルが大きくなるにつれ、一度聞いたら忘れられない、それだけである少年の人生が変わってしまうような、とんでもないベストバウトが数多く誕生しました。
中には気に入ったバトルを何十回とリピートしている人もいるかもしれません。
今回はYouTubeの再生回数やTwitterでの口コミを参考に、本当にヤバいベストバウト18選を紹介します。
- 韻がバチバチに決まった試合
- えげつないフロウを披露したバース
- イキった奴を完全に論破するシーン
とにかくスマホで見ていても指を挙げたくなるような試合ばかりです。ぜひご覧ください。
10年分の思いを込めた最高のMCバトルベストバウト18選
さっそくMCバトルのベストバウト18選を見て行きましょう。
戦極MC battle第5章 SIMON JAP VS チプルソ
あっちのサイモンの方がかっこいいもん
MCバトルがブームになる直前のベストバウトです。まだ高校生ラップ選手権も形になっていないことですね。
2013年前後はチプルソというMCがあちこちで大暴れしていました。今でも斬新なえげつないライミングと、「仲良くする気ないんだなあ」と一目で分かる剣幕でベストバウトを量産。
その中でもSIMON JAPとの試合は有名です。
- 「首カットしてさっさと死ね」
- 「俺のラップはゴージャス、お前のラップは不合格」
- 「こいつのラップは韻が全然ダメ、俺に勝てるなんて100年早ぇ」
- 「俺はバトルまでここまで来たんじゃボケ!!!!」
と、怒らせるとマズいSIMON JAPをボロカスにDISりました。極め付けが今でも語り継がれる「あっちのSIMONのほうがかっこいいもん」。
今は音源を中心に活動しているチプルソですが、今でもMCバトルへの復帰が待ち望まれています。
関連記事:レジェンドバトルMC、チプルソとは?プロフィールや生い立ちを解説
SPOTLIGHT2019 MC BATTLE 決勝3本目 Authority VS CIMA
落ちちゃいけねえ汚れはイエローだって決まってんだよ
この直後にUMB GRAND CHAMPION SHIP王者となるAuthorityとCIMAの対決。2019年はUMBも戦極も、何もかもがAuthorityの一年でした。
もちろん大阪のSPOTLIGHTにも参戦。関西勢有利なこの大会で、関西勢のHARDY、じょう、KZを撃破して決勝へ。最後にまた関西レペゼンのCIMAと激突します。
決勝はビート→アカペラ→ビートの3本勝負。上記はお互いに1本ずつ取り合ったうえでの3本目最終決戦です。
この試合で一番エゲつなかったのは、Authorityの「落ちちゃいけねえ汚れはYellowって決まってるんだよ」とまさにAuthorityらしいパンチライン。
バトルサミットでは「青い地球の黄色い主人公」とも言っていました。彼が日本語ラッパーであることに特別な思いを持っているのがよくわかる試合でした。
1、2本目も相当ヤバいのでぜひ見てみましょう。
KING OF KINGS VS 真 ADRENALINE 決勝 CHICO CARITO VS FORK
ナイスバトルをするだけ頂くぜFORKで
例の全試合ベストバウトの大会。およそ3年ぶりにバトルに復帰したCHICO CARLITOとFORKの決勝戦です。ちなみにCHICO CARLITOは全盛期Authorityをぶっ倒してここにいます。
FORKと比較すると安定感には欠けるのですが、3バース目の彼の爆発力が半端ではありませんでした。
「二羽には庭鶏が…」というのを拾って「俺はチキンでもないしBEEFでもない、ナイスバトルをするだけいただくぜFORKで」と即興で返し、この日1番の上がりどころを作りました。
CHICO CARITOの魅力は、波に乗ったときにひっくり返るほどの衝撃を残す爆発性。それがしっかりと現れたナイスバトルでした。
凱旋MC battle東西選抜春の陣2019 準決勝 Authority VS MC☆ニガリa.k.a紅い稲妻
Tokyo in the building
UMB GRAND CHAMPION SHIP優勝を目指し爆進中だったAuthorityとニガリの試合。Hip hop is deadで16の2小節、最高の条件が整ったなかで一戦でした。
もうプロップスを積み終えたニガリか、強烈な追い風を味方につけたAuthorityという図式。
Authorityとしては割と負けられない試合で、「人類最強、韻踏みたいよ」などと格好いいライムを連発します。
しかりニガリは超人的なフロウで16小節を二回に渡りぶっちぎり。わずかな歓声の差でニガリに軍配が上がりました。
当時のAuthorityの弱点として、バース中にうまくいかない時は素直に「運べねぇ」「俺はまだまだ」みたいなことを言ってしまう部分がありました。
またライムもあまりよい場所に置けず(Hip hop is deadは感じるよりもやや遅いテンポ)、空振りした部分が。
ただビートもメンツも、凱旋準決勝というシチュエーションも完璧で、YouTubeでは400万回以上再生されています。
凱旋MC battle東西選抜春の陣2019 一回戦 MY VS NAIKA MC
稼いだお金は億単位
YouTubeで「MCバトル」と検索したとき、この動画が一番上に上がってきます。再生回数は1041万回、モンスターコンテンツとなっています。
最初に言っておくと試合に勝ったのはNAIKA MCです。しかし主人公はMY。レゲエにヤラレまくってる彼は、全バースレゲエでカマしました。
のちに本人が語るように、「僕はバトルをしにきたんじゃない、レゲエのよさを伝えにきただけ」とのこと。その言葉どおりレゲエらしいワードとフロウで、(若干ラガっぽい)知らざぁの中で表現しました。
その受け手がとしてNAIKA MCは最高の人選だったと思います。MYの思いを受け止めつつも、「もっとカマしてみろよ」と誘うように語り、彼のやりたいことがやれるように導いています。
レゲエ・HIPHOP・バトル・フリースタイル、そして音楽、そのすべての魅力が詰まったバースでした。
何より面白いのは、これだけの伝説的バースを残しているこの男が、YouTubeチャンネルではiPhoneを便器に流されたり、車を横転させられたり、ドレッドヘアーの部分を切り取られた挙句冷蔵庫にぶち込まれたり、家の天井をハンマーで叩き割られたりしたりしている点です。
ボブマーリーが見たら何を思うのでしょうか。
R-指定 VS 呂布カルマ
お前が負けるところ見に来てんだ
UMB GRAND CHAMPION SHIP3連覇に挑むR-指定。あと3つ勝てば前代未聞の異形達成です。
しかしここで立ちはだかったのが、今後因縁深い相手となる呂布カルマ。
この試合は3連覇の道のりにおいて、もっとも苦しい試合でした。先攻、相手はアンサー型、ビートは呂布カルマ寄り。前の試合ではDOTAMAと再延長まで戦い疲弊しきっていました。
案の定「これが俺のやり方、それがわかるか」など、R-指定らしくない月並みなフレーズが出てしまいます。
「お前のラップはR-指定どころかガキ向けだ」というDISも痛烈で、おそらく本人もあまり使いたくないであろう「ここに集まった客の耳を舐めるな」とオーディエンスに媚びるフレーズで何とか凌ぎます。
逆に「ガキが増えた状況を変えられない自分のスキルを恨め」と返しますが、思ったほど客が湧きません。
極めつけは伝説のパンチライン「ここに集まった奴らは、お前が負けるところを見にきているんだ」をぶち込まれ、誰一人味方のいない状況を作られます。
声量も延長か、呂布がやや優勢。しかし晋平太が「観客判定はR-指定」と判定し、陪審員もR-指定を支持。
これについてですが、声量だと呂布が優勢に聞こえます。ただし上がっている手の数ではR-指定のほうが多いように見えます。だとしたら延長判定ではないか、という話ですが…
ここでもし晋平太が「呂布カルマ」だと言っていたら延長戦になっていました。そうすると、今のR-指定はいなかったのかもしれません。
歴史を左右するベストバウトでした。
KING OF KINGS VS 真 ADRENALINE 一回戦 SAM VS SKRYU
気持ちいいところにスッと入る
例の全試合ベストバウトの大会。戦極を優勝し、その賞金でパーマ当てたSKRYUとSAMの対決です。
真 ADRENALINEはバンド演奏で、二人のラップとよくマッチしていました。お互いに「始めようパーリナイ」というフレージングを掛け合い、観客が気持ちよく上がれる展開に。
SAMの調子がよくて、仕込んできた韻も即興の韻もバチバチに決まり、最高のクオリティです
- 「エゴも欲も罪もドレスコード」
- 「ライムは真ん中ストライク、しかも気持ちいところにスッと入る」
- 「それをすり抜けて俺の時代」
また、バイブスだけではなくテクニカルでリリカルに進化したSKRYUの姿も最高でした。
UMB GRAND CHAMPION SHIP
昭和生まれのクソメガネ〜
ベストバウトといえばこの試合を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?
UMB GRAND CHAMPION SHIP2014、泥沼のライバル関係にある二人のマッチアップです。
DOTAMAは2011年にR-指定を圧倒、2012年は決勝でリベンジを果たして優勝。DOTAMAが再度復讐を果たすのか、R-指定が突き進むのか注目されました。
この試合はもつれにもつれ、再延長までやりあっています。ちなみに2012年の決勝も再延長まで泥沼化していました。
特に注目されたのは延長線(二回目)。ややテンポの早いビートでR-指定が倍速のフロウで乗り続け、DOTAMAもそれを受けて立ちます。
まったく甲乙つけ難く、差がついたのが再延長(三回目)。DOTAMAが「平成生まれのポニーテール」とDISったのをR-指定が「昭和生まれのクソメガネ」と意趣返しして、決着がつきました。
DOTAMAとR-指定はどちらにも「正当な言い分」があり、泥沼化しやすい傾向にあります。本人たちにとってはキツい局面ですが、見ているこちらとしてはたまらない試合です。
凱旋MC battle東西選抜春ノ陣2019 一回戦 韻マン VS 晋平太
俺はさつま芋じゃなくてじゃがいも
MCバトル関係では数少ない、1,000万回以上再生されている試合です。
両方ともとんでもない量のライムを踏むのが特徴。試合後に司会の怨念JAPが「何個踏んだんだろうか?」と言うほど踏みまくっていました。
アンサーがどうとかこうではなく、とにかく「どうやったらこんなにたくさんの韻を思いつけるんだろう?」とながめているだけで楽しい試合です。
やはりラッパーといえば韻を踏むこと。その魅力をたっぷりと楽しめるベストバウトです。
KING OF KINGS2017 一回戦GADORO VS NAIKA MC
バトルじゃなくたって戦ってるのさ
UMB GRAND CHAMPION SHIPと並ぶビッグタイトル、KING OF KINGS。中でも2017年のGADORO VS NAIKA MCは最高のベストバウトとして語られています。
NAIKA MCの「調子どうだよ」から始まり、GADOROのやばい韻が炸裂。
「ラストスパート、今夜は般若を超えるラスボスの誕生」など、ネタだとしてもブチ上がるラインを連発。
NAIKA MCも「調子こいたこと抜かしてんじゃねえよボケ!」とGADOROに迫り、バチバチの試合を展開しました。
最後はGADOROの「バトルじゃなくても闘ってるのさ!」で締まります。
お互いのバイブスと技術、そしてKING OF KINGSという大会、そのうえオリジナルビートも格好良く、奇跡的な出来栄えのベストバウトだったと言えるでしょう。
凱旋MC battle東西選抜春の陣2019 一回戦
バースのレベルは小中学生
「バチスタというやばいラッパーがいるんだ」と、ようやく世間が気づいた試合です。
がーどまんはMYに新幹線か何かのチケットを破られて遅刻。変な空気の中でスタートしました。
途中まではがーどまんもバチスタも同クオリティのバースキックで拮抗。しかし最後の最後でバチスタが本領を発揮。
出発点から終着点
スーパープレーのさらに数段上
こんなやつはビート上で銃殺刑
バースのレベルは小中学生 Baby
という完璧なライミングスタイルですべてを掻っ攫いました。
仕込みではあるのですが、これだけの回数と意味を通してくると、ネタかどうかなんて関係ありません。全員がバチスタに釘付けでした。
関連記事:バチスタとはどんなラッパー?空音・TERUとのビーフの真相は?
KING OF KINGS VS 真 ADRENALINE 一回戦 CHICO CARLITO VS Authority
Prideと共に帰ってきたCHICO CARITO
例のベストバウトしかなかった大会です。
3年ぶりに帰ってきたCHICO CARLITOと、現役最強のAuthorityが登場。MCバトルなら誰でも見たくなるとんでもないマッチアップ。
これが一回戦にしかすぎないという贅沢さ加減です。
先攻はCHICO CARLITO、「フロムサウスサイド、Prideと共に帰ってきたCHICO CARLITO!」と宣言し、観客をぶち上げました。
Authorityも「青森、ここでスッとカットイン」、「錆びた王冠いつまでも自慢してる奴に負ける気しないっすよ!」とやり返します。
CHICO CARLITOも「狙ってる統一王者、これが伝説の始まりならどうする坊や?」と、クールかつ強気なフレージングで対抗。
アンサーとアンサーが混じり合い、どこまでも楽しませてくれる奥深い試合です。
この試合は、観客の期待値を考えればCHICO CARLITOが勝つ流れでした。誰だって3年ぶりの彼はもっと見たいはず。
しかしAuthorityの「負けたくない!」という気持ちが強く感じられる試合でした。
戦極MC BATTLE 第22章 二回戦 鎮座DOPENESS VS MAKA
レゲエにルーツを置くMAKAと、フロウの天才、レジェンドの鎮座DOPENESSの試合。
「これが即興?」と疑いたくなるほど、ずっと独創的で声が途切れることなく音楽を歌い続けています。
もう何を言っているのかはどうでもよく、とにかく耳が気持ちいだけの試合です。
HIPHOPやバトルを楽しむ人は、言葉に注目しがちですが、この試合だけはとにかく音だけを楽しめます。
やはり鎮座DOPENESSが天才で、拍の取り方だったり、滑舌だったり、休符の取り方だったりが超人的。
フロウの方向性を切り替えるタイミングも抜群で耳ざわりのよい言葉を選べるセンスも。
それに対して4本レゲエ早口フロウで返し続けたMAKAも格好よかったです。
ここまでフロウ勝負になる試合も珍しく、そして楽しいベストバウトは貴重です。
凱旋 MCbattle冬の陣2020決勝:MU-TON VS 呂布カルマ
魔法陣完成〜
コロナ禍直前、まだ思い切って声を出せたときの凱旋。
決勝戦はMU-TONと呂布カルマの組み合わせでした。
ビートは今やクラシックとして完全に定着した韻踏合組合の「マラドーナ」。
テクニカルなビートで16小節2本、決勝戦にふさわしい最高の組み合わせです。
MU-TONはこのビートを乗りこなし、完璧なフロウを披露しました。対する呂布もきっちり拍を取り、しかも話の筋もそろえて言い返します。
これは延長戦となり、むしろこちらのほうがベストバウト。「蜂と蝶」である程度落ち着いたBPMのなか、しっかりと対話がなされます。
これは呂布にとって有利な展開でした。MU-TONは呂布カルマがあちこちに私物を置いている点に触れます。
さらに後攻のバースその位置関係を持ち出して「魔法陣完成したから俺の勝ち」と繰り出す鬼のような発想力が決め手なりました。
両方ともクソカッコイイMC、しかも両方の個性や強みがたっぷりと楽しめるベストバウトです。
U-22 MCBATTLE FINAL2019決勝 だーひー VS Authority
即興だから即興で返そうぜ
22歳以下のMCだけが参加できる戦極の下部大会。
決勝には若々しいだーひーと、当時ノリに乗っていたAuthorityのマッチアップ。
正直なところAuthorityのほうが優勢だと見られていましたが、この日誰よりも調子がよく優勝に燃えていただーひーがブチかまします。
声を枯らしながらも前向きな気持ちをシャウトし続け、会場を味方に。さらに「大本命」という単語に反応して「大本命、台本ねぇ、即興だから即興で返そうぜ」と即興でアンサーしてこの日一番アツい瞬間を作り出しました。
ただAuthorityの自力が尋常ではなく、「スプーンナイフフォーク、これがリアルなスタイルウォーズ」などと、レベルが段違いの韻を見せつけます。
最後は「地図になった、救われたぶんマイクに一途になった」と”子韻踏み”を決めたAuthorityが僅差で勝ちました。
その後膝をつくだーひーに目線を合わせたAuthorityと司会のMAKA。その姿まで含めて胸を熱くさせるベストバウトです。
凱旋MC battle Special アリーナノ陣2021 ID VS Authority ベスト8
既存の知識を頭に入れるな
2020年あたりから、MCバトルの会場はアリーナや日本武道館で開催されるようになりました。とうとうここまできたか、というところです。
横浜アリーナで開催されたこの試合では、因縁だらけのIDとAuthorityが激突。何度もベストバウトに絡むAuthorityは、本当に素晴らしいMCです。
ビートはTEENAGE VABE。IDは即興なのに音源としか思えないイカれたフロウを披露。
Authorityは韻ではなくグルーヴィーな新スタイルで勝負します。カッコいいフロウと対話、そして韻に頼らないリリカルをぶつけました。
非常にレベルの高い試合で、「MCバトルってここまできたんだ」と思わせてくれる内容です。
そして1:59のAuthorityのラップを意識した神がかり的編集が…
FREE STYLE LEAGUEエキシビジョンマッチ T-Pablow VS R-指定
最後に紹介するのはFSLのエキシビジョンマッチ、T-Pablow VS R-指定。
めったに出てこないT-Pablowと、フリースタイルダンジョンぶりに復活したR-指定、歴史に残るエキシビジョンです。
誰もが注目された最高の試合で、二人ともその期待にしっかりと応えました。
これについてはフリースタイルリーグ発足!どんなリーグになる?で文字起こししながら解説しています。興味がある人はぜひ参考にしてください。
まとめ
本記事では10年間をさかのぼり、MCバトルのベストバウトを紹介しました。
フリースタイルダンジョンや高校生ラップ選手権などの影響で、MCバトルはすっかりカルチャーとして定着。
そしてこれまでの間に数々のベストバウトが生まれました。これら見れば、MCバトルの面白さをたっぷりと楽しめるでしょう。
また、今後もフリースタイルリーグなど新しいシーンにおいて、数多くのMCバトルが生まれるはずです。